水戸地方裁判所 昭和33年(行)6号 判決 1959年3月31日
原告 石沢米蔵
被告 茨城県教育委員会・茨城県人事委員会
主文
原告の被告茨城県教育委員会に対する訴を却下する。
原告の被告茨城県人事委員会に対する請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の申立
一、原告代理人は「原告が茨城県那珂郡山方町立北富田小学校助教諭の地位を有することを確認する。被告茨城県人事委員会が昭和三十二年十月二十六日付でした原告の同年九月三十日付不利益処分審査請求を却下する旨の決定を取り消す。訴訟費用は被告らの負担とする。」旨の判決を求めた。
二、被告茨城県教育委員会代理人は請求棄却の判決を求め、被告茨城県人事委員会代理人は主文第二第三項同旨の判決を求めた。
第二、当事者の主張
一、1、原告の被告茨城県教育委員会(以下県教委と略称する。)に対する請求の原因
(一) 原告は、小学校助教諭の臨時免許状を有し、昭和二十九年七月十六日より茨城県那珂郡山方町立北富田小学校助教諭として同小学校に勤務していたところ、被告県教委は、昭和三十二年七月三十日付原告宛文書をもつて、免許状が失効したので失職になつた旨の通知を発し、原告は同年八月一日右通知書を受領した。そして、同日以降原告は出勤を拒否され、給与も支払われず、離職したものとして取り扱われているのである。
(二) しかし、臨時免許状が有効期間の満了により失効したからといつて、それと同時に当然に当該教員がその職を失うということにはならないのである。
元来身分法と資格法とは異なるものであつて、資格法たる教育職員免許法上教員たる資格を失つても、身分法たる地方公務員法の規定により離職する場合に該当しない以上当該教員はなおその地位を保有するわけである。そして地方公務員法第二十八条第六項第十六条の定めている当然失職の事由中には免許状失効の場合は規定されておらず、したがつて当該教員の地位を失わしめるためにはその者に対する免職処分がなされなければならないのであるが、被告県教委の右の如き処分のない本件においては、原告は未だ前記助教諭たるの地位を有しているものといわなければならない。ちなみに、原告の臨時免許状は昭和三十二年七月十四日失効することになつていたが、原告はその後も引きつづき従前の職に勤務する考えであつたので、右免許状の失効前さらに同免許状の授与を受けるため、同年六月二十二日被告県教委に対し検定出願をしていた。ところが被告県教委は前記免許状の失効後である同年七月二十二日付で原告に検定不合格の通知をし、また同月三十一日までの給与の全額を支払つている。もしも免許状の失効とともに原告が当然に失職したものとすれば、なにゆえ被告県教委が右のような処置をとつたのか理解できないのである。
(三) かりに前記被告県教委の発した失職通知が職を免ずる旨の行政処分にあたるとしても、
(イ) 地方公務員法第二十七条によれば、同法に定めている分限および懲戒の事由にあたる場合でなければ、職員はその意に反して免職されることがないものとされており、原告に対しては同法による免職処分をなしうべき事由はなんら存しなかつたのであるから、右の免職処分は無効である。
(ロ) また、原告が従前の免許状の失効前ふたたび免許状の授与を受けるため、被告県教委に検定出願をしたことは前記のとおりであり、そして原告は検定合格のため必要とされている単位を、合格基準たる九単位をはるかに上廻る二十二単位もとつていたものである。ところが原告はかねてより教育事務研究のため進んで図書を購入し所持していたところ、前記小学校の校長が原告の読書傾向等を不適当として、右図書の処置その他について指示したことから、いわゆる焚書事件なるものが発生して有名となつたのであるが、これについては、原告になんら責められるべき点はなかつたにもかかわらず、被告県教委は原告を好ましからざる人物であるとして、ことさら免許状の有効期間の満了を利用して原告を離職させるため、なんら首肯すべき理由がないのに、前記のように原告に対し検定不合格の通知をして免許状の授与を拒否し、その後前記のように失職通知をしたものであつて、かかる処分は著しく妥当性を欠き当然無効の処分というべきである。
(ハ) 前記免職処分については、労働基準法第二十条の解雇の予告がなされていない。同条は強行規定であつて、右予告を欠く本件処分は無効である。
(四) 以上のように、原告に対する免職処分は不存在または無効であり、原告はいまなお北富田小学校助教諭たる地位を有しているものであるのにかかわらず、前記のように、被告県教委はこれを認めないので、同被告に対する関係において原告が右の地位を有することの確認を求める。
2、被告茨城県人事委員会(以下県人委と略称する。)に対する請求の原因
(一) 被告県教委に対する請求の原因の項に記載したような事実関係であつたので、原告は被告県教委が前記のような失職通知をしたのは、原告が昭和三十二年六月二十二日提出した免許状の授与を受けるための検定願に対し不当に不合格と決定し、従前の免許状が同年七月十四日失効することに藉口して不当に失職の取扱をしているもので、原告の意に反する不利益処分であるとして、地方公務員法第四十九条により、昭和三十二年八月十二日同被告に対して、処分事由説明書の交付を請求する旨の同月十四日付書面を郵送したところ、同年九月二日右説明書の交付はその必要がないとの通知を受けた。そこで原告は、同年九月三十日被告県人委に対し、前記の理由をもつて不利益処分の審査請求をしたのであるが、同被告は「本件失職通知はこれによつてなんらの法律効果をも生ずるものでなく、単なる事実行為であつて、行政処分ではないから、不利益処分として審査すべき対象を欠くものである。かりに行政処分としても、右請求は審査請求期間経過後になされた不適法なものである。」旨の理由により、同年十月二十六日付で審査請求却下の決定をなし、原告は同月二十八日その決定書謄本の送達を受けた。
(二) しかしながら、右却下決定はつぎにのべる理由により違法であり、取り消さるべきである。
(イ) 地方公務員法第四十九条に規定する被告県人委の不利益処分の審査の範囲は、狭義の行政処分ということにとらわるべきものではない。人事の公正を期し地方公務員の身分保障をまつとうするため設けられた同条の規定の趣旨ないし人事委員会の存在目的にかんがみるならば、公務員の意に反した不利益な措置が現実にとられた場合は、それが狭義の行政処分に該当しないときであつても、被告県人委はこれを審査し是正救済の方法を講じなければならないものである。
本件においては、被告県教委は原告に対し地方公務員法に定める一定の手続により免職の行政処分をしたものでなく、資格法たる教育職員免許法に定める免許状の失効ということに藉口し原告に「失職通知」を発することにより、免職と同一の取扱をしたもので、原告にとつては意に反する不利益な措置であり、その審査の請求に対しては被告県人委は当然審査すべきものである。
(ロ) 前記原告の審査請求は、地方公務員法第四十九条所定の適法な請求期間内に提起したものであるのに、被告県人委は期間の計算を誤り却下決定をしたものである。すなわち、(1)原告が被告県教委から書面による失職通知を受けたのは、昭和三十二年八月一日であるから、同日が原告において不利益処分を受けた日にあたるのである。ところが、被告県人委は請求者たる原告の受けた不利益処分の日を同年七月三十日とし、これを前提として審査請求の期間を計算するという誤りをおかしているのみならず、(2)原告が、前述した如く、被告県教委に対し処分事由説明書の交付を請求し、その説明書と同視しうべき書面の交付を受けた事実を考慮せず、前記(1)の判断により地方公務員法第四十九条第四項の請求期間の起算日を昭和三十二年七月三十一日として六十日間の期間を計算し、その満了日を同年九月二十八日と判断したものである。
原告は、前述の如く同年九月二日に処分事由説明書と同視しうる書面を受領したものであるから、前記法条により、その翌日から起算して三十日以内である同年九月二十八日に審査の請求をしたものであつて、決して法定期間経過後の請求ではない。
(三) 以上のように、原告のした不利益処分審査請求は適法であるのに、被告県人委は不利益処分の実体について、なんらの審査もせずに却下したもので、違法の処分であるからその取消を求める。
二、被告県教委の答弁
(一) 原告主張(一)の事実中、失職通知書が原告に到達した日は昭和三十二年七月三十一日であり、この点についての原告の主張事実は争うが、その他は認める。
(二) 原告主張の(二)の事実については、臨時免許状の失効のみによつては、失職しないとの原告の見解はこれを争う。原告の臨時免許状は昭和三十二年七月十四日失効しこれとともに原告は当然教員たる身分を失い失職したものである。したがつて、被告県教委のした失職通知は、免職処分ではなく、原告が失職したことを事実上通知したものにすぎないものであつて、その通知自体によつて、なんらの法律効果を生ずるものではない。原告が、免許状失効前である昭和三十二年六月二十二日付でふただび臨時免許状の授与を受けるため被告県教委に検定出願をしたこと、これに対し被告県教委が同年七月二十二日付で検定不合格の通知をしたこと、免許状失効後同年七月末日までの給与全額を支払つたことは争わないけれども、検定のおくれたのは、被告県教委の事務輻湊のためであり、給与は検定不合格の通知を発した日の前日(同月二十一日)すでに同月分全額の支払をしてしまつてあつたので、親心としてはことさらこれを取り戻さなかつたにすぎない。免許状の失効後も教員たる身分が存続することを認めて右の処置をしたわけではない。
(三) 原告主張(三)の事実について、
(イ) 前記のように、原告は免許状の失効により、当然に失職したもので、被告県教委としては、さらに免職処分をする必要はなく、前記失職通知は免職処分として行なつたものではない。それゆえ、右の通知が免職処分にあたることを前提とする原告の(三)の主張は失当である。
(ロ) 原告の検定願に対し、被告県教委が不合格の決定をして通知したことは前記のとおりである。(右検定不合格の決定は昭和三十二年七月二十二日付で即日書留郵便に付して原告に通知したので、翌二十三日頃原告に到達している。)しかし、右不合格決定を原告主張のような理由のためにしたこと、したがつて著しく妥当を欠く決定であるとの点はこれを争う。
(ハ) 免許状の有効期間は法律上定められており、あらかじめ失効を予知しうるものであるから、原告主張の労働基準法第二十条の解雇の予告に関する規定を適用すべき場合にあたらない。
(四) 以上のとおりで、原告の臨時免許状の失効後は、原告は小学校助教諭たる地位を失つているものであるから、それがなお存続していることを前提とする原告の本訴請求は理由のないものである。
三、被告県人委の答弁
(一) 原告が小学校助教諭の臨時免許状を有して、那珂郡山方町立北富田小学校助教諭として勤務していたところ、原告において、「右の臨時免許状が昭和三十二年七月十四日に失効するので、引きつづきその職に勤務すべく同年六月二十二日茨城県教育委員会に教育職員検定願を提出したところ、同委員会は同年七月二十二日検定を不合格となし、ついで同月三十日付をもつて、辞令を用いずして不当にも原告の意に反して失職せしめた」旨の理由で、同年九月三十日被告県人委に対し、不利益処分の審査請求をしたところ、これに対し被告県人委が同年十月二十六日付で原告主張の趣旨の理由により審査請求を却下するとの決定をし、当時決定書謄本を原告に送達したこと、原告が右審査請求に先だち同年八月十四日付書面で被告県教委に対し処分事由説明書の交付を請求したところ、被告県教委が同月三十一日付書面をもつて、右説明書を交付する必要がない旨原告に通知したことはいずれもこれを認める。
(二) 原告主張の2の(二)の違法事由について
(イ) 地方公務員法第四十九条に規定する不利益処分は、原告主張のように広義のものでなく、任命権者の権限にもとづいてなされた行政処分でなければならない。本件において原告は免許状の授与をうけるため、被告県教委に検定を出願し、不合格となつたもので、したがつて原告の免許状の有効期間の満了により、免許状は失効し、原告は法律上当然失職したものである。被告県教委の失職通知は事実上の通知にすぎないから、審査の対象となるべき行政処分は存在しないものである。
なお、原告は臨時免許状の効力の存続するまでと期間を限つて任用せられたものであるから地方公務員法第四十九条第五項の法意によつても、審査請求をなしえざるものである。
(ロ) 原告が被告県人委に提出した審査請求書によれば、原告は不利益処分を受けた日を昭和三十二年七月三十日と主張している。よつて被告県人委は、翌七月三十一日より起算し、地方公務員法第四十九条第四項により、審査期間は六十日後の同年九月二十八日に満了するものと算定し、原告の九月三十日付審査請求は法定期間経過後になされた点においても不適法であるとしこれを却下したものである。
かりに、原告が昭和三十二年八月十四日に処分事由説明書の交付を被告県教委に請求した事実を考慮するとしても、同日より十五日以内に処分事由説明書の交付はなかつたものであるから、前記第四十九条第四項後段の規定により、原告は右八月十四日から十五日の期間経過後三十日の間に被告県人委に審査請求をしなければならないところ、原告はこれを徒過した後に、審査請求をしたものである。
(三) 以上の理由により被告県人委が原告の審査請求を却下したのは正当で、なんら違法の点はない。
四、両被告の答弁に対する原告の主張
1、被告県教委は昭和三十二年七月十五日から同月三十一日までの給与は親心として取り戻さなかつたにすぎない旨主張しているが、免許状が同月十四日失効することは前からわかつているはずだから、免許状の失効とともに、当然失職するとの見解をとるかぎり、その後同月二十一日に給与を支払うはずもないのであり、同被告の右主張は強弁にすぎない。
2、被告県人委は、原告が地方公務員法第四十九条第五項、第二十八条第四項所定の職員であるということからしても、不利益処分の審査請求をなし得ない旨主張するけれども、原告は条件付採用期間中の職員に該当しないのはもちろん、臨時的に任用された職員にも該当しないから、右主張は失当である。
第三、証拠方法<省略>
理由
一、被告県教委に対する訴について。
職権をもつて、原告の被告県教委に対する本件訴の適否について考えるに、被告県教委に対する本訴請求はは、山方町立北富田小学校助教諭たる原告に対し、免職処分がなされておらず、もしくはそれが無効であることを前提とし、原告がいまなお右助教諭たる地位ないし身分を有することの確認を求めるというのであるから、それは行政処分の取消または変更を求める訴すなわち抗告訴訟に該当しないのはもちろん、行政処分の無効を確定しもつて表見的に存するその効力を除去せんことを直接の目的とする行政処分の無効確認訴訟とも異なり、ひつきようそれは公法上の当事者訴訟に属するものとみるほかはない。そして、このような公法上の当事者訴訟につき行政庁たる県教委が当事者能力を有しないことは明らかであるから、原告の被告県教委に対する本訴は、当事者能力を有しないものを被告とするものであり、その点において不適法なものといわねばならない。
二、被告県人委に対する請求について。
原告が茨城県那珂郡山方町立北富田小学校助教諭として同小学校に勤務していたこと、同人の有していた免許状が小学校助教諭臨時免許状であつたこと、原告が被告県教委より自己の意に反する不利益処分を受けたとして昭和三十二年九月三十日地方公務員法第四十九条の規定により被告県人委に不利益処分の審査請求をしたこと、その理由とするところは「前記臨時免許状が昭和三十二年七月十四日に失効するので、原告は引きつづき従前の職に勤務すべく、同年六月二十二日被告県教委に対しふたたび臨時免許状の授与を受けるための検定出願をしておいたところ、県教委は不当に検定を不合格とし、同年七月三十日付で原告に対し免許状の失効により失職した旨通知したもので、右は免許状の失効に藉口して不当に失職の取扱をしているものであり、原告の意に反する不利益処分に該当する。」という趣旨であつたこと、これに対し被告県人委は、同年十月二十六日付で「右失職通知なるものは、これによつてなんらの法律効果をも生ずるものでなく単なる事実行為にすぎないから、審査の対象となるべき不利益処分に該当しない。かりに同年七月三十日に処分行為があつたとしても、審査請求は法定の審査請求期間経過後になされたものである。」との趣旨の理由により審査請求を却下する旨の決定をしたこと、当時その決定書の謄本が原告に送達されたことは、いずれも原告と被告県人委との間において争いがない。
そこでまず、臨時免許状を授与されて教員として勤務していた者が、その免許状の失効とともに当然に教員たる身分を失うかどうかについて考えてみる。
教育職員免許法第三条第一項は、「教育職員はこの法律により各相当の免許状を有する者でなければならない。」と規定し、いわゆる教育職員の免許状主義を明らかにしており、同規定に違反し、相当の免許状を有しないのにかかわらず、これを教育職員に任命し、もしくは雇用しまたは教育職員となつた者に対しては、同法第二十二条により罰則をもつて臨んでいるのであつて、右の趣旨は、教育職員についてはその職務の特殊性にかんがみ、同法所定の免許状を有することを教育職員たる身分を取得するための資格要件とするとともに、その身分の継続も右の資格の保有を前提とし、免許状が失効し右の資格を失えばその身分も当然に失われるとするにあるものと解せられる。これに反する原告の見解は当裁判所の採らないところである。
ところで、原告の有していた臨時免許状が昭和三十二年七月十四日失効すべきものであつたことは原告の自ら認めるところであるから、その失効前さらに免許状を授与されていたのでないかぎり、原告は右免許状の失効とともに当然に教員たる身分を失つたもの、すなわち前記小学校助教諭たる地位を失つたものといわなければならない。
もつとも、原告が右の免許状失効に先だちさらに臨時免許状の授与を受けるべく、昭和三十二年六月二十二日授与権者たる被告県教委に対し検定の出願をしていたところ、これに対し被告県教委が免許状の有効期間経過後である同年七月二十二日付で検定不合格の通知をしたことおよび同被告が同月三十日付で失職通知をし、同月中の原告に対する給与の全額を支払つたことは弁論の全趣旨に徴して認められるところである。被告県教委の右の処置が不当であることはもとよりいうまでもないが、いずれにせよ、原告としては、免許状授与のための検定が不合格となり、あらたに免許状の授与を受けなかつたものである以上、従前の免許状の失効とともに、教員たる身分を喪失したものというほかない。前記失職通知なるものは、原告が教員たる身分を失い失職したことを通知したものにすぎず、右通知によつて原告の離職という法律効果を生じたものということはできないのである。もし原告がなお教員たる身分を保有しているにかかわらず、被告県教委が失職通知をし、爾後離職したものとして取り扱つているという場合であれば、免職処分という形式をとつていなくても、原告は右の取扱を不利益処分としてこれが審査を請求し得るものといえようが、失職した者を失職したとして取り扱つても、それは当然の処置であり、すこしも原告において身分上不利益な取扱を受けたことにはならないわけである。
原告が教員たる身分を保有するかどうかは、前記のように原告があらたに免許状の授与を受けたかどうかにかかつているのである。原告は不利益処分審査請求の際被告県教委が不当に検定を不合格とし免許状の授与を拒否するとともに、従前の免許状の失効を理由として失職通知をしたのは、原告を離職せしめるため免許状の失効に藉口したものであるとの趣旨の主張をしているのであるが、免許状の授与を拒否したことがかりに違法であつたとしても、そうだからといつて、従前の免許状の有効期間が当然に延長されるわけのものでもなく、失職の効果になんら影響はないわけである。なお、免許状授与のための検定を不合格とする決定ないし免許状授与の拒否処分それ自体は、任命権者のなすところの職員の身分上の取扱とは別個のものであるから、右の決定ないし拒否処分を不利益処分として人事委員会に審査請求をすることも許されないものと考える。それゆえ、原告において被告県教委を相手方として前記検定不合格の決定ないし免許状授与の拒否処分の取消を求めることが許されるかどうかは格別、被告県人委に対し前記失職の取扱につき不利益処分としての審査を請求することは許されないものというべきである。したがつて、被告県人委において、被告県教委の原告に対する失職通知がいわゆる不利益処分に該当しないものであるとして、原告の審査請求を却下したのは正当であり、右却下決定の取消を求める原告の本訴請求は失当といわねばならない。
三、以上の次第であるから、爾余の争点に対する判断を省略し、原告の被告県教委に対する訴を却下し、被告県人委に対する請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 多田貞治 広瀬友信 生末幸代)